『ピアニッシモに生産性はあるか』
※同性愛表現、性的なことを感じさせる表現があります。
苦手な方は、読むこと、演じることをおすすめしません。
気分を害された際の責任は取れませんので、あしからず。
また、そういった作品であることを事前に告知していただけますと幸いです。
【登場人物】
女1:恋人である女2に振り回されながらも、なんだかんだと関係を続けている。元から恋愛対象は女。
引く手あまたな女2との繋がりの曖昧さに、少し怖いと感じている。
女2:女1と関係を持ちつつも、男にも女にもフラフラしてしまって、地に足がついていない。
恋愛対象は男でも女でも。年齢もさほど関係ない。
女1とは誠実に向き合っているつもり。
配役表
女1:
女2:
女1「…ねえ」
女2「なあに?」
女1「最近さ…」
女2「どうしたの、急に言い淀んで」
女1「煙草のにおい、しない?」
女2「うん、吸うようになったからね」
女1「ええ?聞いてないんだけど?」
女2「だって、言ってないもん」
女1「どして?」
女2「内緒」
女1「…また別の人作ったんでしょ」
女2「違うよ!」
女1「今度は男?女?年上?年下?」
女2「だーから、違うって言ってるじゃん!」
女1「いいよ、別に。アンタとはそこは割り切って付き合ってるつもりだし。どんな相手が出てきても私は…」
女2「ちょっと!失礼すぎない?そりゃ今まで散々フラフラしてアンタのこと呆れさせたかもしれないけど、こないだしっかり謝って連絡先だって全員分消したじゃん!」
女1「その三日後には違う女の子ひっかけてたのはどこの誰?」
女2「う…だ、だけど…今度は違うの!」
女1「へえ、そうなんだ。じゃあ、なんでまた煙草?」
女2「…なんとなく」
女1「はい絶対ウソ」
女2「なんで!?」
女1「目を見ればわかる」
(間)
女1「で?本当は?」
女2「…私たちってさ」
女1「うん」
女2「本当に、生産性無いじゃん」
女1「ないね」
女2「ばっさりいくね…」
女1「だって本当のことじゃん」
女2「そうだけど…そんなにはっきり言わなくても」
女1「自分で言い出したことでしょ?で?生産性がないから?」
女2「そう、生産性がないからさ」
女1「うん」
女2「もっと生産性のないことしてやろうって思ったわけ」
女1「ふうん、もっと生産性のないこと…ね…」
女2「そう、だから、煙草。ないでしょ?生産性。百害あって一利なし。何も生まれないどころかマイナスになる」
女1「そうね」
女2「…吸ってみる?」
女1「吸わない」
女2「なんでよ」
女1「百害あって一利なし。何も生まれないどころかマイナスになるから」
女2「…あっそ」
女1「…銘柄なに?」
女2「よくわかんないから見た目が可愛いやつにしてきた。これなに?」
女1「知らないで吸ってんの?バカなんだから…」
女2「バカって…!むう…!で?これ、なに?」
女1「ぴ、あ、にっしも…アンタ、ピアニッシモ吸ってんの?なんか、やだわ」
女2「え、なんで」
女1「なんとなく」
女2「え、なんでよ!」
女1「なんとなくはなんとなく」
女2「はい絶対ウソ」
女1「うるっさい」
女2「ふうん、まあいいや」
(間)
女2「…ねえ」
女1「なに?」
女2「生産性のないこと、シよ」
女1「え?」
女2「今すぐ、シたい」
女1「は…急になに…」
女2「そういう気分になったの。それで、その後、ぴあにっしも?吸うの。それで…」
女1「…それで?」
女2「ううん。なんでもない」
女1「…私は、今はシたくない」
女2「なんで」
女1「なんででも」
女2「なーんか、今日は駄々っ子みたいだね、ふふ」
女1「っ…だってアンタ…」
女2「なあに?」
女1「シたら、そのあとこの家出て行くつもりでしょ」
女2「…!」
女1「わかってたよ。アンタが煙草始めた本当の理由。生産性がないだのなんだの、いろいろ言ってたけど、私と別れたいからでしょ?」
女2「な、ちが…」
女1「違わないよ。アンタは私に飽きたの。だから、最後にまったく生産性のないことやって、終わらせようとしたんでしょ」
女2「聞いて、私は…」
女1「いいって、元々そういう約束だったじゃん。お互い飽きたらさよならって。それでもしがみついてたけど、ここで終わらせないとズルズル…」
女2「違うったら!!なんでいつも決め付けるの!!」
女1「っ」
女2「私の話、聞いてってば!!私は…私は、この関係が怖いの。始まりも終わりも自分で決める。そうやってきたし、それでいいと思ってた。だけど…こんな私をずっと長いこと受け止めてくれて…そんなアンタのこと、本気で愛おしいと思っちゃったの…!!」
女1「ほ、本気で愛おしいって…そんな小っ恥ずかしいこと…」
女2「愛おしいよ!私に振り回されて、ほだされて、結局許してくれて。でもこの関係、きっと世間的には認められるものではなくて…。これから先、茨(いばら)の道になるんだろうなって思ってて…!…だから私なりに抵抗したの」
女1「…抵抗?」
女2「そう。同じくらい、いやそれ以上生産性のないことして、私とアンタの関係を自分に認めさせたかった。揺らいでる自分が嫌だったの!」
女1「…そう、なの。それで、ピアニッシモ、か」
女2「…バカだと思う?」
女1「アンタはバカだよ。さっき言ったじゃん」
女2「…こういう時、辛辣だよね…」
(間)
女1「ちょっと、それ貸して」
女2「へ?」
女1「ピアニッシモ、一本ちょうだい」
女2「え、あ、吸わないんじゃ」
女1「本当にこんなの害悪でしかないよね。高いし身体に悪いし、副流煙だっつって人に迷惑までかけるし」
女2「う、うん…」
女1「だから!…こんなのよりよっぽど、私たちの方が生産性あるでしょ」
女2「え…」
女1「誰かを不快にさせてるわけでもない。自分たちが傷ついて、苦しんで…。それでも私はアンタの傍にいたいと思ってる。なんでかはもうわかんない。何回こっそり泣いたかわかんない。アンタ甘えたがりだから、ホイホイいろんな人のとこついていくし」
女2「え、ごめ、ごめんね…?」
女1「いいよ。もう。それに、さ。自分で自分を納得させるためにわざわざ煙草吸ってみたり。そういうとこ、私も愛おしいと思ってんだよね」
女2「え、えへへー!なんか面と向かって言われると照れくさいな…」
女1「まだ浮気は許してないから(きっぱり)」
女2「ええ!?もう時効でしょ!?」
女1「んなわけあるか!時効なんてないわ!…そうね、バツとして…」
女2「…ば、バツとして?」
女1「…これからも私の隣で償っていきなさい(少し笑いながら)」
女2「…!はい、わかりました(少し笑いながら)」
女1「で?手始めに、生産性のない行為、シますか?」
女2「え…シたくないんじゃ…」
女1「気が変わった」
女2「もう、しょうがないなあ…。よし、シよっか。終わったらピアニッシモ、二人で吸おう」
女1「…ねえ」
女2「ん?」
女1「銘柄変えてくれない?」
女2「どして?」
女1「ほら、アンタの昔の『オトコ』が吸ってた匂いといっしょ。何年か前に、長く関係のあったアイツ。だから、腹が立つ」
女2「えー!?そうだっけ?っていうか、そんなことまで覚えてるの?あの人は性別関係なかったし、身体の関係もなかったよ?」
女1「っ、あーもう!はいはい!そうですかそうですか!」
女2「(笑いながら)私のこと、大好きじゃーん」
女1「…だってそりゃ、性別は気にするでしょうよ…こちとら女なんだから…」
女2「まあまあ落ち着いてよ。ピアニッシモ吸う?」
女1「…アンタのこと押し倒してめちゃくちゃにしてから吸う」
女2「きゃあ!私、めちゃくちゃにされちゃうのー!およしになってー!」
女1「バカ言わないの!ほら、ベッド行くよ」
女2「…ねえ」
女1「なに?」
女2「この会話にも生産性ないと思う?」
女1「…ンー、もう、そんなことどうでもいい、かな」
女2「だよね、私もおんなじ気持ち(笑う)」
「(二人で笑う)」
~END~
2020.12.14