『センパイ』
生島:大人しい 若干潔癖症 受け (27歳)
センパイ: 飄々としてる そこそこモテる 攻め (28歳)
黒田: 生島と仲良しの女友達 (27歳)
【配役表】
生島:
センパイ:
黒田:
生島:昔から、下ネタで下品に笑ってるやつは嫌いだった。
それはなにかとてもいけないことのような気がして。
ゲラゲラ笑ってるヤツらを低脳なのだと片付けていた。
けれど、自分にそんな欲が無いわけじゃなくて、
そんな時に出会ったのが、センパイだった。
センパイ「お前、ああいうヤツら嫌いだろ」
生島「え、あ、そんなこと…」
センパイ「隠さなくてもいい、見りゃわかるよ
お前ああいうのに合わせるの苦手そうだもんな」
生島「えっと…」
センパイ「ま、生きづらい世の中だから、
俺は不器用なとこ、好きだけどな」
生島:くしゃりと笑った顔に、ドキリとした。
「好き」その二文字がふわふわと浮いてどこまでも飛んでいく。
この人は俺のことを受け入れてくれる。
ああ、俺はもしかして、この人のことが…。
生島「ゆ、め…?」
生島:カーテンの向こうから日差しが差し込む。
目覚ましを見ればまだアラームの5分前だった。
生島「センパイ…」
生島:久しぶりに声に出して呟いた気がする。
サッと顔が赤くなるのに気がついて、慌てて布団から出る。
今日は陸上部のOB会だ。センパイも出席予定のはず。
それであんな夢を見たんだろう。
俺はまだ、高校二年のあの頃に囚われ続けたままでいる。
黒田「あ!来たな〜!生島〜!」
生島「あ、久しぶりだな!」
生島:同級生の黒田だ。男勝りなところがあって、
黒田「なんだ全然変わってないじゃん〜ちょっと痩せた?」
生島「
あれ?でもお前は太ったか?」
黒田「うるさいな!幸せ太りだっつーの!」
生島:ギクリ、とした。
黒田「そういやアンタ、葉純ちゃんとはどうなったの?
生島「あ、ああ…その…別れたよ」
黒田「はあ!?なんで!?
生島「そんなの知らねえよ…」
黒田「それで葉純ちゃん出席じゃなかったのか〜
アンタ惜しいことしたわね〜!
なに?振られたの?振ったの?」
生島「うるさいな…その話はもう…」
黒田「なによ!って、あ、センパイだ」
生島「!っ、ゲホゲホ」
センパイ「黒田じゃないか、それに生島も、久しぶりだなあ
生島?大丈夫か?」
生島「大丈夫です…その…」
黒田「センパイおはようございます!
ってちょっと生島大丈夫?
アンタセンパイに懐いてたもんね!」
センパイ「黒田、部活じゃないんだからその挨拶やめないか」
黒田「あはは、すいません」
生島「…その、お久しぶりです、センパイ」
センパイ「おう、久しぶり」
生島:驚くほどに、センパイは自然だった。
会ったら胸倉掴んでやろうとか、罵倒してやろうとか、
センパイ「で?葉純ちゃんと別れた生島は?今フリーなのか?」
生島「か、からかうのやめてくださいよ」
黒田「この歳でフリーとか可哀想すぎる…
今度合コン開いてあげようか!?」
生島「なんで既婚者のお前と合コン行くんだよ」
黒田「そこはアンタ、ナイショよ、ナイショ」
センパイ「そういう黒田は太ったか?」
黒田「もお!みんなして!幸せ太りですってば!」
生島:奇妙な感覚だった。
みんなあの頃のことを過去のこととしてとらえて酒を飲み、
俺だけがまるであの頃にとじこめられたままのように感じた。
黒田「え、ちょ、生島、それ!あたしの!」
センパイ「あれ、生島、酒全くダメなんじゃ…」
生島:それが嫌で、
途端視界がぐらついた。
そこからの記憶は、ない。
生島「…ん」
生島:猛烈な頭痛に襲われて目を覚ます。
ぐらぐらとする視界の端に誰かがよぎった気がした。
生島「セン、パイ…」
センパイ「ピンポーン、大正解」
生島「!?」
生島:勢いで起き上がると頭がクラクラした。
センパイ「ああ、おいおい寝てろ、
生島「ここは…?」
センパイ「俺の家」
生島:こともなげに言うセンパイに、ギョッとする俺。
センパイ「安心しろよ、もうとって食ったりしないから」
生島「俺、帰ります…」
センパイ「待てって、そんな状態で帰せるわけないだろ
明日も休みだろ?今日は泊まってけ」
生島「嫌です…」
センパイ「なんでだよ」
生島「もうあなたとは関わりたくない!」
センパイ「生島…」
生島「センパイはいつもそうだ、俺みたいな男からかって遊んで、
玩具くらいにしか思ってないんでしょう!
そんな人の家になんていたくない…!」
〜回想〜
センパイ「なあ、俺と試しに付き合ってみないか」
生島「へ…」
センパイ「お前、女ダメだろ」
生島「そ、んな、こと…」
センパイ「だから、見りゃわかるんだって
いいじゃん、お互い相手もいない、女はダメ、
生島「でもその…男同士とかそういうのは…俺…
センパイ「ハハ、潔癖だな、そういうところも好きだけど」
生島「!」
センパイ「好きって言われてドキドキしてるだろ、
可愛いと思う
どう?試しに俺と三ヶ月、恋人やってみないか?」
生島「…三ヶ月」
センパイ「そう、お試しで、三ヶ月」
生島「………わかり、ました」
センパイ「じゃあよろしくな」
生島「俺は…あの頃のことが忘れられなくて…!
だから、センパイにはもう会いたくないって思ってたのに…
センパイ「じゃあなんで、俺が来るってわかってるOB会に来た?
生島「それは…ひ、一言文句をと思って…!」
センパイ「ふうん、文句、ねえ…」
生島:じりじり、センパイがベッドに近づいてくる。
いやだ、ダメだ。
頭の中で警鐘(けいしょう)が鳴る。
なのに、金縛りにかかったみたいにピクリとも動けなくて。
センパイのちょっと酒で潤んだ瞳から目が逸らせなくて。
センパイ「本当は期待してるんじゃないのか?」
生島「ちが」
センパイ「俺の部屋で、俺のベッドの上で」
生島「何言って…」
センパイ「なにかされるの、想像してるんだろ」
生島「…!」
センパイ「耳まで真っ赤だな、はは」
生島:センパイが俺の頬に触れる。
心臓は破裂しそうなほど痛い。
時が止まってしまったかと思った。
反射で目を瞑ったら、くつくつという笑い声が聞こえてきた。
センパイ「はは、キスされると思ったか?」
生島「な、わ、ちょ、ちょっと!」
生島:急に頭をくしゃくしゃにされて戸惑う。
まただ。この人はいつまでも俺をかきみだす。
だから、会って一言文句を言ってやろうと思ったのに。
…ちがう、本当は。本当に聞きたかったのは。
生島「…センパイ、なんであの時、
センパイ「ああ、高校の時か?」
生島「そうです、三ヶ月の期間が終わって、そのあと…!」
〜回想〜
生島「好き、です。センパイのこと
よかったらこれからも付き合って、ください」
生島:校舎裏、人気の少ないこの場所が俺たちの逢瀬の場だった。
そこにやっとの思いでセンパイ呼び出したら、
センパイ「悪い、それはできない」
生島「どうして、ですか?」
センパイ「お前に飽きたんだよ、もう女の子と付き合ってる」
生島「えっ…」
センパイ「言ったろ?試しだって
俺はお前と合わなかったから、だからもうおしまいだ」
生島「でも、センパイ、女だめって…」
センパイ「気付いたんだよ、こんな関係生産性がないって
だからお前も、はやく可愛い子見つけて付き合えや」
生島「そんな…」
生島:唐突すぎる別れだった。
じゃあと手を振ったセンパイは振り返りもせず校舎に戻っていった
俺は動けないまま、センパイに言われた言葉を反芻した。
飽きた。合わなかった。生産性がなかった。
耳鳴りのようにぐるぐるとセンパイの言葉が浮かんでは消える。
たしかに、決して正しいとは言えなかったけど、
そんな時間をセンパイは全否定した。
じわり、じわりと憎いと思った。
じくり、じくりと心臓が痛んだ。
ほどなくしてセンパイは部活を引退し、卒業した。
顔を合わせることはほとんどないままだった。
~回想終了~
生島「あの後葉純と付き合いはじめて、
ずっとずっとセンパイが頭から離れなくて
でもセンパイに言われたこととかぐるぐるしてて、
センパイの代わりに男と付き合う勇気もなくて俺、
俺だけが高校二年のまま、時間が止まってるんです」
生島:おかしい、こんなことが言いたいんじゃない
生島「あんまりじゃないですか、俺、真剣だったのに…!
俺、ちょっと潔癖はいってたのに、
女の子と付き合うなんて、そんなの…!
生島:酔っ払ってるせいか口が滑ってしまう
生島「お試しだなんて言って、そんなの、そんなのって…!」
生島:ダメだ、泣くな、みっともない姿を見せるな
生島「俺は、ずっと、センパイのこと…!」
生島:突然目の前が真っ暗になった。
センパイに抱きしめられてるのに気が付いたのはそれから三秒ほど
生島「ちょ、やめ、やめて!離してください!」
センパイ「ごめん」
生島「えっ」
センパイ「辛い思いさせて、ごめん」
生島「謝られると余計に惨めなんですよ…!」
センパイ「そうじゃない、そうじゃないんだ」
生島「なにが…!」
センパイ「合わなかったとか、飽きたとか、生産性がないとか、
生島「は…ウソ…?」
センパイ「そう、ウソ。女の子と付き合ってたってのも
確かに俺は軽い気持ちでお前に声をかけたよ
でもだんだんとお前に惹かれてる自分に気づいた
だけどお前言ってたろ?男同士は正しくないって…
俺は散々悩んだんだ、お前の幸せってなんだろうって
それを考えたら、
生島:俺を抱きしめながらセンパイは続ける
センパイ「お前には家庭を持って、
俺はいいよ、こんな生き方してきたんだから、
でもまさか今の今までその言葉でお前を傷つけてたなんて、
いや、自業自得なんだけどさ」
生島「ま、待って…
センパイ「ふっ、そんないいもんじゃないけど、
俺がここで別れれば幸せになれるだろうとは思ってたよ」
生島「そんな…」
センパイ「俺の時間も、高校から動いてないよ
だから未だにパートナーができない
なにをしてても、どう足掻いても、お前潔癖なとことか、
生島:センパイは困ったようにくしゃりと笑った。
高校の時そのままの笑顔だった。
センパイ「多分俺、本気でお前のこと好きなんだと思う」
生島「う、そだ…」
センパイ「本当だよ」
生島「信じられません…」
センパイ「信じてくれなくていいよ
もう一回ちゃんとするから」
生島「え?」
センパイ「俺ともう一度、三ヶ月だけ付き合ってくれ
いろんなところに行って、いろんなことして、
幸せにするって保証はできないけど、でも、
生島:より一層ぎゅっと抱きしめられて、戸惑う。
それよりも言われた言葉が理解できなくて、
センパイ「高校の時とおなじ、お試しだよ、お試し
お前が嫌だって思ったら離れてくれていい
俺はお前の言葉で腹を括ったから、
生島:俺、センパイに告白されてる?
この背中に手をまわせば俺の時間はすすみだすのか?
本当に?もう辛い思いをしなくていいのか?
夢の中でしか会えなかったセンパイと、
まだこわい…それが本音だった
だけど
生島「センパイ、俺、まだこわいです」
センパイ「…そうか…そうだよな…」
生島:
センパイ「ちょ、え?」
生島「でも、
センパイ「お前…」
生島「お試しだろうがなんだろうがもうどうでもいい
センパイのそばにいたい
センパイの一番になりたいです…!
男同士はそりゃ正しくないかもしれないけど、
俺はセンパイがいいんです!」
センパイ「っ!」
生島:強く、強く抱きしめられる。
なんて幸せな息苦しさだろう。
俺はこの人とこうなるために、
そう思えるほどに、幸せな時間だった。
センパイ「なあ」
生島「なんですか」
センパイ「キスしたい」
生島「!?」
センパイ「ダメか?」
生島「ダメですダメ!」
センパイ「なんでだよ!減るもんじゃねえだろ!」
生島「ちが、だって…」
センパイ「だって、なんだよ?」
生島「そんなことされたら、心臓もたない…」
センパイ「お前が心臓バクバクさせてるのなんてお見通しだよ、
相変わらず素直だよな」
生島「!」
センパイ「しゃーない、今は我慢してやるか」
生島「…どうも、です」
センパイ「せいぜい覚えとけ、心臓破裂しようがなにしようが、
今夜寝る時は覚悟して寝ろよ」
生島「ええ!?そ、そんな…!!」
センパイ「ふ、はは」
生島「…センパイ」
センパイなんだよ」
生島「不束者ですが、これからどうぞ、よろしくお願いします」
センパイ「!ったくもうお前は…!
やっぱりプラン変更だ
今すぐチューしてやる」
生島「え!?あ!?ちょ!?ま、ま、まってー!!」
〜Fin〜
2020.03.02