※性的表現、喘ぎあり
 

 
『ストーカー』

ハセガワ リョウ:会社員 ストーカーに監禁される (28歳)
謎の男:30歳 ハセガワを監禁する (30歳)
男:ハセガワを探しているようだが…? (大体28~32歳)
 

 

【配役表】

ハセガワ リョウ:

謎の男: 

男:

 

 

 

 

 

 
 

 
ハセガワ:目隠し、手錠、強制的にM字に開かされた脚はコンクリートの床の冷たさを伝えてくる
どうしてこうなったのだろう
意識がぼんやり、はっきりしない状態で、やたらといい声が聞こえてきた

謎の男「おはよう、目が覚めた?」

ハセガワ:口を開こうとして何かが口に詰まっていることに気がつく
ゴム製のそれは空気穴がついており、口が開きっぱなしになるようになっていて、とたんパニックになった

ハセガワ「!?んむ、んんー!!んー!!」

謎の男「ああ、落ち着いて、落ち着いて、大丈夫だよ」

ハセガワ:男が近付いてくる気配を感じた
より一層頭が混乱する
ここはどこだ、こいつは誰だ、なんで俺は素っ裸でこんな格好をさせられてるんだ…!

ハセガワ「ふー、ふー、んー!」

謎の男「ああ、口のそれが気になるの?うーん…」

ハセガワ:ちょっと考える素振りを見せたそいつは渋々と言ったていで俺の頭をそっとつかんだ
パチン、ベルトの外れる音がする
ヨダレとともにそれが口から出ると、新鮮な空気が肺に届く

ハセガワ「(震える深呼吸)」

謎の男「ああ、怖かったね、大丈夫かい?もうそんなきみの怖がることはしないから。安心してね」

ハセガワ「あんた…」

謎の男「これはギャグボールって言ってね?喋れなくしたり、舌を噛み切ったりしないようにする、SMグッズって言ったらわかるかな?」

ハセガワ:暗闇の中で男の声だけが響く
猛烈な怒りが込み上げてきた

ハセガワ「…てめえ!!ふざけんじゃねぇ!!なにがギャグボールだ!!俺をこんな裸にひん剥いてこんなとこに縛り付けて!!なにがしてんだよ!!あんた、誰なんだよ!!」

(言い終わり、肩で息をする)

(少しの間)

謎の男「言いたいこと、それだけ?」

ハセガワ「はあ!?」

謎の男「じゃあ順番にこたえるね、君を裸にしたのは服が邪魔だったから、拘束したのは暴れられると困るから、そして僕は…

…僕は、ただのきみのストーカーだよ」

ハセガワ「…っ!?はあ!?」

謎の男「ストーカーだって
ずっと前から君のこと見つめてたんだ
だから会社帰りの君をさらってきた
そしてここに監禁してる
僕のものにするために、ね」

ハセガワ:嬉しそうな声色はまだ続ける

謎の男「いや、きみをここまで運ぶのに苦労したよ
マンガみたいにうまくいかないものだね
薬を後ろから嗅がせてもダメだったから結局みぞおちに一発入れちゃったし
痛くない?ごめんね」

ハセガワ:そう言われてから、腹の辺りにじくりとした痛みを感じた

ハセガワ「…っ!そんなこたどうでもいい!ストーカー!?はあ!?俺は男だぞ!?何言ってんだよお前!!それに、さっきの質問何一つ答えになってねえ!!」

謎の男「そんなの裸をみてるんだから百も承知だよ
僕はきみが好きなんだ、ずっとずっときみを見てきた
答えになってなかったかな?でもそれ以上の情報をきみは知らなくていいよ」

ハセガワ「はあ!?ふざけ…」

謎の男「はい、名残惜しいけどおしゃべりはおしまい
またこれ、付けるね
舌を噛み切られちゃ困るから」

ハセガワ「まっ!んぐっ!」

謎の男「ふふ、真っ赤なギャグボール、似合ってるよ、色が白いからかな?」

ハセガワ「ん、んぐ!んんん!」

謎の男「ははは、何言ってるか、わからないよ
…さて」

ハセガワ:男は俺にギャグボールとやらをはめたあと、なにやらゴソゴソと箱を漁る音をさせ始めた

謎の男「確かここに…あ、あったあった」

ハセガワ:突然冷たい何かが胸の辺りにかかって思わず飛び上がりそうになる

ハセガワ「ん!?!」

謎の男「ああ、ごめんごめん、ローションだよ、気にしないで」

ハセガワ「んむぅ!?」

謎の男「ちょっと、違法の、ね」

ハセガワ:男がそう言った瞬間、かけられた部分がカッと熱を持って、むずむずと痒くなる
驚いていると、そんなのお構いなしに男は胸の、特に乳首に、その【違法ローション】とやらを塗り込んでいく

謎の男「きみにはここで感じるようになってほしいんだ
女の子みたいにね」

ハセガワ「っ…っ…!」

ハセガワ:男が乳首に触るたびに今まで感じたことの無い感覚に襲われる。こそばゆくて、でも、これは…

謎の男「ん?気持ちいい?こっちも半勃ちだよ」

ハセガワ:そう言ってグッと性器を握りこまれる
あまりのことに声も出なかった
そしてそこにもこれでもかと言う程それを塗りたくられ、同じように疼いていく

謎の男「ふうん、やっぱり海外製のものは効きが違うね、こんなに手っ取り早いなんて」

ハセガワ「ん、ふぅ、んんんっ…」

ハセガワ:自分の声に明らかに艶が混じっているのに気付いて我慢しようとするも、ギャグボールから声は漏れ出してしまう。それくらい、認めてしまうくらい、男の大きな手は気持ちよかった

謎の男「さて、そろそろイきなよ」

ハセガワ「!?んー!んんー!!ふぅっ」

ハセガワ:男の大きな手が俺の性器を包み込んで扱く。有り得ない状況と、有り得ない身体の反応のなか、俺は快楽の海に飲み込まれていく

謎の男「これからは僕がイけって言ったら、イくんだよ?いいね?

ハセガワ「んっんっ!ふ、う、んー!んーっ!」

謎の男「ほら…イけ」

ハセガワ「っーーー!!」

ハセガワ:耳元で囁かれた瞬間、思い切り裏筋を擦られて俺は思わず果ててしまった
静寂がしばらくの間空間を支配した

謎の男「ふ、ふふふ、あはは!」

ハセガワ:男が突然笑い出す

謎の男「どこかも分からないところで、拘束されて、訳の分からないもの使われてイくなんて、君、変態の素質でもあるんじゃない?」

ハセガワ:くつくつと笑う男に反論したかったが、もうそんな気力もなく、意識は遠のいていく

謎の男「おやすみ、ハセガワくん」

ハセガワ:最後に聞こえたのは、愛しさに満ちた声だった

 

 

 

 

 

 

 
男「ちくしょう!!」

男:居間のテーブルを両手でバンと叩く
かえってくるのは静寂のみだ
もうあいつが帰って来なくなって3日が経つ
会社も無断欠勤。ケータイは何度鳴らしても圏外
いったい何があったと言うんだ

男「ああ…事件に巻き込まれてないだろうな…頼む…無事でいてくれ…!」

男:神様にもすがるような想いで手を組みあわせる
生まれてこの方神様なんて信じたことは無かったけれど、今この瞬間だけは信じざるを得なかった
米つぶがカビカピになるからと付けおいている弁当箱も、もう三日間付けおかれてふやけている
いつものくせで作ってしまう弁当はそのまま生ゴミのゴミ箱行き
それ以外、変わったことなど何一つなかった
脱ぎ散らかした靴下、ワイシャツ、肌着
それらが点々とベッドサイドまで続いていて、よほど疲れが溜まっていたのか、そのまま寝たのがうかがえる
でもそれも三日前の話だ
三日前に見た、ベッドサイドに転がる薄い水色のワイシャツを手に取り、はあ、とため息をつく

男「無事で、いてくれ…」

 

 

 

 

 

 

ハセガワ「んぅ!んー!んー!」

ハセガワ:気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い
俺は今男にアナルの拡張だとかなんとかと言われ、尻穴に指を入れられていた
あれからどれくらい時間が経っただろうか
あの【違法ローション】を尻に突っ込まれ、排泄器官としてしか使ったことのないその場所は羞恥と苦痛を与えられる器官と化していた
相変わらずギャグボールはつけっぱなし
舌を噛み切って死ぬことすらできない
地獄のような、時間だった

謎の男「んー?このあたり、かな?」

ハセガワ「ふぅ…ん!?ん!!んぅ!!」

ハセガワ:男がある一点を探り当てると、頭から足先まで痺れるような快感に襲われる
なんだ、これは…?

謎の男「ああ、みつけた
ここは前立腺って言ってね、女の子で言うところのGスポットみたいなものかな?
くるみくらいの大きさで、開発していくとここだけでイけるようになるんだよ」

ハセガワ:こともなげに言う男に目隠しの下で目を白黒させてしまう
なんだ、前立腺…?Gスポット?
そんなの俺は知らない
尻で快感を得ている自分がひたすら恥ずかしくて、声をこらえていると頭がボーっとしてくる

謎の男「あれ?気持ちいい?そっかそっか、こっちの素質もあったか
やっぱりきみは変態だね」

ハセガワ「んう!!んー!!ふ、く、んん!!」

ハセガワ:違うと声をあげようとして、それがそのまま喘ぎ声になる
悔しくて、涙がこぼれてきた
なんなんだ、この状況

謎の男「あれ?泣いてるの?そんなに気持ちいい?
それとも惨め?悔しい?」

ハセガワ:黙っていると男は尻穴を探る手をピタリととめ、ギャグボールのベルトを外した

ハセガワ「っぷは…っ、あんた、なんな、ぁああ!」

ハセガワ:そしてまた前立腺とやらを刺激され、まともな反論を許して貰えない
泣きたくて、気持ちよくて、悔しくて、もう感情はぐちゃぐちゃだった
俺の身体はこの男に支配されている
そのことだけは頭の片隅で理解していた

謎の男「そろそろきみの可愛い喘ぎ声か聞きたくなってね
いいなあ、やっぱり可愛いよ、きみ」

ハセガワ「やめ、やめっ、ああ、あっ!」

謎の男「やめないよ、ほら、前もいじってあげようね」

ハセガワ「!い、やだ!やだ!ああ!やめろ!んん!」

ハセガワ:尻穴をほじられながら、性器を扱かれる
あっという間に射精感は襲ってきた

ハセガワ「いやだ、こんな!こんなぁ!」

謎の男「いや、じゃなくて、いい、だろ?
こんなにグチャグチャにして…
ほら……イけ」

ハセガワ「あっ、くーーっ!!」

ハセガワ:呆気なく吐精した
しかも、男の命令通りに
プライドが、男としてのなにかが、同時になくなってしまった気がした

ハセガワ「ふ…く…っ!(泣く)あんた!なんなんだよ!」

ハセガワ:思わず涙をボロボロ零しながら叫んでしまう

ハセガワ「こんなことして!俺をこんな目にあわせて!楽しいのかよ!ふざけんなよ!
いったい、俺が何をしたって言うんだよお!(泣く)」

ハセガワ:惨めな気持ちのまま涙を流していると、息を呑んだお男は、そっと俺の頭を撫でてきた

ハセガワ「っ!やめ!」

謎の男「ごめん」

ハセガワ「は…?」

謎の男「ごめんね」

ハセガワ:その声があまりに沈んでいて、泣きそうで、なぜだろうこちらまで余計悲しくなってきた。

ハセガワ「あ、謝ったってなあ!」

謎の男「こうしようか」

ハセガワ「はあ?」

謎の男「これからきみが僕の命令通りにイけたら、なんでもひとつ質問に答えるよ
なんでもだ
どうだい?」

ハセガワ「まだこんなこと続けんのかよ
あんた、もうとっくに犯罪者だぞ」

謎の男「わかってるよ、でも、この行為には意味があるんだ」

ハセガワ「意味、わかんね」

謎の男「分からなくていい、今は」

ハセガワ:うん、とも、いやだとも言えずにいると男はふっと笑った。

謎の男「強情だなあ、こんな状況でも折れない
それが僕のきみを好きなところなんだけどね」

ハセガワ「気色わりぃ」

謎の男「うん、ごめんね
さあ、質問をひとつ、どうぞ?」

(少し間をあけて)

ハセガワ「…名前」

謎の男「うん?」

ハセガワ「あんたの、名前だよ
…なんて呼べばいい」

謎の男「…それが質問?」

ハセガワ「わりいかよ!!」

謎の男「いやいや…!
えっと、そうだなあ
…僕のことはワタルと、呼んでくれ」

ハセガワ「わかったよ」

ワタル「…、ちょっと疲れたろ?今食事をとってくるから、待ってて」

 

 

 

 

 

 

男「クソぉぉお!!!!」

男:リビングの花瓶を床に叩きつける
枯れた花たちが水とともに床に散らばる
ハセガワが消えてもう一週間
気が狂いそうな毎日だった
会社はハセガワを辞職扱いにした。探せるとこはもう探し尽くした
ハセガワの実家、近くの公園、よく飲みに行く居酒屋
だが、いつも足を棒にして帰ってくるだけだった
怖い
ハセガワがもうこの世からいなくなってしまったのではないかと思うと、怖い

男「ハセガワ…ハセガワ、ハセガワ、ハセガワっ!ハセガワ!!」

男:爪の先を噛みながらハセガワの名前を呼び続ける
俯いてしゃがみ込んだ
涙が溢れて止まらなかった
なあ、ハセガワ。どこに行ったんだよ

男「…?」

男:俯いた先、目線を少しずらせば、テレビボードの下になにか落ちていることに気付いた
少しずらせば取れそうだ

男「…ん」

男:手を伸ばして"それ"を掴む
思わず息を呑んだ
そして、"それ"を掴んだままハセガワの家を飛び出した

 

 

 

 

 

 
ハセガワ:ワタル
30歳
バーを営んでいること。店長らしい
趣味は酒を飲むこと
犬を二匹買っていて、犬種はそれぞれダックスと、パグ
結婚はしていないらしいこと
好きな食べ物は、ハンバーグだということ
俺が聞き出した情報のすべてだ
それだけ、俺はこいつに身体を許してしまったということになるのだが
なぜ、射精と引替えにこんなどうでもいい話を、と自分でも思う
でも何故か、ここかどこなのかとか、助けを呼ぼうとか、そういう気にはなれなかった
最近ではギャグボールも目隠しも取ってもらい、拘束も簡易なものになっていった
目隠しを取られてはじめてわかった
むき出しのコンクリートに、防音設備。そしてステージや機材
地下のライブハウスなのだろうということが伺いしれた

ワタル「ハセガワくんは恋人はいないの?」

ハセガワ「いねえよ
まあ、いたってこんなに音信不通になってたら、自然消滅と思われるのがオチだ」

ワタル「じゃあ、御家族は?」

ハセガワ「いない」

ワタル「いない?」

ハセガワ「俺が小さい頃離婚して、母さんは俺が16の時俺を置いて男と出ていった
だから、家族の愛みたいなもん、俺は知らないし、家族なんていないようなもんだ
会社行って働いて飯食って好きな酒飲んで寝て、ずっとそんなことの繰り返しだよ」

ワタル「そう、だったんだ…」

ハセガワ「だからワタルが俺を好きだ好きだって言ってくるのも、正直よく分かんねえ
俺は愛とか、恋とか、ほんとによく、分かんねえんだ」

ワタル「…ハセガワくん…そんな愛に飢えた顔をするからきみは…

ハセガワ「?なんだよ」

ワタル「いや、なんでもない」

ハセガワ:毎日こうやって、いろいろな、他愛のない話をした
そして、いわゆる、性行為に近いこともした
なぜだろう、俺はこの男に情でもうつったというのか
多分そうなんだろう
今日もあいつが、ワタルがやってくる時間だ
もはや快楽を得る器官と化した尻穴が疼く
今日はなにをされるのだろうか
なにを話すのだろうか

と、重たい扉が開く
パッとそちらを見ると

 

 

 

 

 

 
男「…見つけた」

男:ハセガワだ。約十日ぶりのハセガワだ
嬉しくて、嬉しくて、涙がこぼれてきた

男「ああ!ああ!ハセガワ!ハセガワ!」

男:拘束が施されたハセガワは全裸でこちらをぽかんとした顔で見つめていた

男「ずっと!ずっとずっと探してたんだぞ!このバカ!
ケータイは通じない、会社には来ない、家に行ってもいない!ずっと心配してて…!
そしたらテレビボードの下からバーの名刺が出てきてピンと来たよ!ここ、お前一回来たことあったろ?地下がライブハウスになってて、もしかしてそこに誰かに監禁されてんじゃないかって!
そしたらビンゴだよ!」

男:俺は言いながらハセガワの拘束を解く

男「…ここの店長のお前を見る目がおかしかった
それで思い当たったんだ
本当に気づいてよかった」

男:にっと、笑いかける

男「さ、帰ろう!あいつが来る前に!」

男:グイッと手を引いたその時だった

(少し間をあけて)

ハセガワ「なあ、あんた…」

(少し間をあけて)

ハセガワ「あんた、誰だ…?」

(少し間をあけて)

男「は…?」


ワタル「(息を切らして飛び込む)ハセガワくん!!」

 

 

 

 
ハセガワ「ワタル…?」

ワタル「ハセガワくん!今すぐその男から離れるんだ!」

ハセガワ「は、え?は…?」

ワタル「僕はそいつから!きみのストーカーからきみを守るために!ここに監禁してたんだよ!」

男「…誰が…ストーカーだよ…!
俺はこいつの…
こいつの、恋人だよ」

ハセガワ:訳が分からなかった
突然現れた男が自分を恋人だと言い張る
それを見てワタルはこいつがストーカーだと言い張る
だけどワタルは最初、「僕はただのきみのストーカーだよ」と言った
何がどうなっているのかわからないまま、話は進む

男「俺は!毎日こいつの弁当を作ってポストに入れて!会社に行くの見届けて!合鍵で部屋に入って掃除して!ほら!もう一緒に住んでる恋人みたいなものだろう!?
なあ!?ハセガワ!!」

ハセガワ:ギョッとした
確かにここ二ヶ月ほど、ポストに知らない人間からの弁当が入れられ、部屋にはいられた痕跡があった
犯人はこいつだったのか
それでもなお自分は恋人だと言い張るこの男に背筋が凍った
そうだ、これじゃまるでこいつが…

ワタル「ストーカーだよ、ハセガワくん
ここ数ヶ月君を悩ませてた犯人はこいつだ」

男「ちげえっつってんだろ!俺とハセガワは恋人同士なんだよ!
俺は何度も何度もハセガワの寝顔を見てる!その横顔にキスしたこともあるんだからな!」

ハセガワ:震えが止まらなかった
夜中に合鍵を使って忍び込み、俺にキスしてたって言うのか、この男は
それで恋人同士だと勘違いしているのか
気持ちが悪い
純粋にそう思った

男「とにかく、ハセガワはお前みたいなストーカーには渡さない!
おい、帰ろうハセガワ」

ハセガワ「っ!やめろ!」

ハセガワ:再び握られた手に嫌悪感しか感じなくて思わず振り払う

男「は…?やめろ…?」

ハセガワ:男の目が座ったのが分かった

男「何言ってんだよ…俺はお前の恋人で…俺はお前を助けにきたヒーローで…好きになってもらうために必死で…いなくなって、死んじまったんじゃないかって心配して…
なのに…俺を振り払うのか…?」

ハセガワ:ゆらり、ゆらりとこちらに近づいてくる
恐怖しか感じなかった

男「そんなこと、ハセガワは言わない…」

ハセガワ「おい、落ち着け…」

男「さてはお前、あのストーカーに洗脳されたんだな…かわいそうに…俺が全部消毒してやるからな…」

ハセガワ「こ、こっち、来んな…」

男「これからもずうっと、二人で住もう…こんな男にさらわれる心配のない、どこか遠いところに二人で行こう…な?だから…」

ハセガワ「やめ、やめ…!
っ、ワタル…!」

ハセガワ:そう呟いて目を瞑った瞬間、

男「がっ…」

ハセガワ:男は、コンクリートの床に突っ伏していた

ハセガワ「へ…?」

ワタル「ったく、ハセガワくんは本当に、ストーカーに好かれるなあ」

ハセガワ:苦笑いをしたワタルが背後からこいつを殴ったのだと分かった

ワタル「怖かった ?大丈夫?怪我はない?」

ハセガワ「あ、あ…」

ハセガワ:何も言えないでいると、また苦笑いをして何故かワタルは後ずさった

ワタル「今の今まで騙していてごめん
前にうちのバーに一度だけきたハセガワくんに一目惚れして、それでその時この男に悩まされてるきみがかわいそうで、でもどうすればいいのか分からなくて、こんなことをしてしまった
俺もこいつとおんなじ、ストーカーだ
警察につき出すなり、なんなり、好きにしてくれ」

ハセガワ:頭を下げるワタル
複雑な気持ちだった

ワタル「性的な行為は俺が欲望を抑えきれなかった結果だ
強姦罪…になるのかな…?はは…本当にごめん
今すぐ警察に行こう
この男も引き渡さなきゃだしな」

ハセガワ:目を伏せたままこちらを見ないワタル

ハセガワ「…んなんだよ」

ワタル「え?」

ハセガワ「なんなんだよ!!!それ!!!」

ワタル「え!?」

ハセガワ:すさまじい怒りが込み上げてきた

ハセガワ「ふざけんなよって、何回言わせるんだよ!!
俺はこの十日間で身体を作りかえられちまった!!
それだけじゃない!!心もだ!!」

ワタル「こ、心もって?」

ハセガワ「うるせえ!!あんたが泣きそうな声でそんなこと言うと、こっちまで悲しくなるようになったんだよ!!ちくしょうちくしょう!!なんなんだよ!!
ケツいじくり回したり、他愛のない話したり!!好きだ好きだ言ってきたり!!
あんたが罪悪感覚えてんの気付いてねえとでも思ったのかよ!!」

ワタル「っ!ご、ごめん!気持ち悪かったよね…」

ハセガワ「そうじゃねえから混乱してんだろ!!こんの!!
こんの変態ストーカー野郎!!」

(キスをする)

ワタル「ん!?!」

ハセガワ「…っ、確かに気持ち悪いし、やったことは許せえねよ
でもあんたは、この男から俺を守ってくれた
愛とか、恋とか、そういうの、なんとなく教えてくれた
…もう、理屈じゃねえんだよ…!!」

ワタル「ハセガワくん…」

ハセガワ「リョウだ」

ワタル「え?」

ハセガワ「リョウって呼べよ、ワタル」

ワタル「こんな、こんなこと…許されるのか…?
俺は、ただのストーカーで…」

ハセガワ「っだから!許すわけねえだろ!覚悟しとけよ!」

ワタル「え?…え?」

 

 

 

 

 

 

 

 
ワタル:三日後
付きまとってきた男を警察に突き出したリョウは、弁当箱や、そいつの持っていた合鍵、それらを証拠品に、警察官の前で堂々とストーカーされていたと言ってのけたんだそう
警察官も若干引いてはいたものの話を聞くうちに真剣な顔つきになって、事件沙汰にするかどうか聞いてきたらしい
だかリョウは示談に応じると言った
今後一切の関わりを断つと、守らなければ出るとこに出てしかるべきことをすると、怒鳴ってきたらしい
まったく、男らしい

ハセガワ「…タル…ワタル!聞いてんのか!」

ワタル「え!あ!ごめん、聞いてなかった!」

ハセガワ「ふざけんなよ!人が話してんのに!」

ワタル「ごめんごめん、だってそのはなし何回目?
飲みすぎで覚えてないでしょ
何杯飲んだと思ってるの」

ハセガワ「うるせーな!
えーと…ごお、ろく、なな、八杯目だ!」

ワタル「十杯目だよ
そんな強いカクテル呑んで、大丈夫なの?」

ハセガワ「だから言っただろ!許さねえって!」


ワタル:あの後、俺にキスをしたリョウは絶対に許さないと言った

ハセガワ「だから!ワタルの店の酒呑み尽くすまで、許さない!」

ワタル:その言葉は警察に行く気だった俺を唖然とさせた

ワタル「え、あの、それはどういう…」

ハセガワ「そのままの意味だよ!
ワタル、バーの店長なんだろ?
閉店したら俺にたらふく酒飲ませろ!いいか!俺が満足するまでだぞ!」

ワタル「警察に行かなくていいの…?」

ハセガワ「…こいつは突き出すさ、本当に気持ち悪いしストーカーなわけだし、何してくるかわかんねえし
でも…」

ワタル「…でも?」

ハセガワ「…お前は、ワタルは、いいんだよ…!
い、いいか!今度は俺がワタルを監禁してやる!
俺なしじゃいられない身体にしてやるからな!
ふ、はははは!!」

ワタル:リョウは豪快に笑った
その笑顔に、罪悪感がすっと薄まっていくのを感じた
もしかしたら、もしかしたら、リョウは俺のこと…
なんて思ってしまうくらいだった


ハセガワ「なあ、ワタル」

ワタル「ん?どうした?リョウ」

ハセガワ「男同士のセックスってさ、やっぱケツにちんこつっこむ訳?」

ワタル「えっ!?は!?え!?」

ワタル:酒でぽわんとした顔で聞いてきたリョウは驚いた俺を見ていたずらっ子のように笑った

ハセガワ「あー、いやらしいこと考えやがったな、この変態ストーカーめ!」

ワタル「う!うるさいな!
…そう、だよ
お尻に、性器を、いれるんだ」

ハセガワ「ふぅん…」

ワタル「な、なに?」

ハセガワ「なあ」

ワタル「だから、なに!」

ハセガワ「…したいか?」

ワタル「え?」

ハセガワ「だ!か!ら!俺と!セックス!してえかって聞いてんの!」

ワタル「っな!え、えっと…」

ハセガワ「っあー!もう!ったくまどるっこしい!」

ワタル:立ち上がって俺の胸倉を掴んだリョウは、カウンター越しに俺にキスをした。

ハセガワ「来いよ、ストーカー
俺に本当の愛ってやつ、教えてくれよ」

ワタル「 リョウ…!」

ハセガワ「…そのためにこんなベロベロになってやったんだ、感謝しろよな!」

ワタル:決して酒のせいではないだろうリョウの顔の火照りに、そしてその言葉に、頭がクラクラする。

ハセガワ「…いいか、ワタル
これからもストーカーみたいに、ずっと俺のそばを離れんなよな」

ワタル「っ、まったく…!
ああ…!わかったよ
 

 
…愛してるよ、リョウ」

 

 

 

 

 

 

 
〜Fin〜

 

 

2020.03.03  みたに

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